安心して医療を受けるしくみとしての「特定疾患」
福島 慎吾
SMAでは、病気の特性から重度の肢体不自由をともなうことが多いため、乳幼児期を除けば、身体障害者手帳を取得し、障害者施策の対象となっている人がほとんどと思われます。障害者施策は、ヘルパー利用や補装具費給付のような個別給付のほか、社会資本のバリアフリー化、特別支援教育など内閣府所轄の総合的な制度となっています。しかしSMAは「病気のある障害者」であり、医療とのかかわりを軽視することはできません。しかもその医療は治療のための医療だけでなく、生活するための医療であることもしばしばです。そこで今回は、SMAの人たちが安心して医療を受けることのできるしくみについて、皆さんといっしょに考えてみたいと思います。
■医療保険について
わが国では短期滞在の外国人を除き、全員が何らかの医療保険(健康保険)に加入することとなっています。つまり保険証を持参して病院へ行けば、原則3割の一部負担金で必要な保険医療を受けることができるしくみです。対象は保険医療に限られますので、差額ベッド代などの選定療養、高度先進医療などの保険医療対象外の治療や薬剤、訪問看護の交通費、おむつ代等は全額自費となります。
この原則3割の一部負担金への公的な助成制度が、今回の話題とする「公費負担医療制度」です。したがいまして差額ベッド等は、そもそも公費負担医療制度の対象とはなりませんので、この点はお含みおきください。
■障害者医療費助成について
身体障害者手帳を取得し障害者施策の対象者と認められると、一定の要件を満たしていれば、障害者医療費助成の対象者となります。この制度は国の制度ではなく、国からの補助も一切ない地方自治体の制度となっていますが、全国1,800あまりのすべての市町村で行われています。SMAとは直接関連のない病気やけが、歯科治療などでも、保険医療の範囲であれば、この制度の対象となる点が大きな特徴です。
現在、SMAの多くの人は、必要な医療を受ける場合に、この制度を利用していることが多いのではないかと思います。しかしこの制度は地方自治体によって、その対象者、そしてそのしくみさえも大きく異なっており、近年の地方財政の悪化にともない、対象者は限定される方向へ向かっていることは否めません。また制度上、直接の関係はないのですが、昨年施行された障害者自立支援法の定率負担の影響を受ける可能性も今後は覚悟しなくてはなりません。
NPO法人日本障害者センターが一昨年(05年)行った調査[1]によりますと、以下のような制度の全体像が浮かび上がっています。(註:この制度は市町村の制度のため同じ都道府県内であっても市町村によってその詳細は異なることがあります。)
・47都道府県すべてで身体障害者手帳1・2級を対象としていますが、13道府県では3級も無条件で対象となっています。
・35都道府県で所得による制限が設けられています。その所得の制限額もおおむね3つの基準に準拠しています。
@ 特別児童扶養手当の限度に準ずるもの‥‥450万円程度
A 特別障害者手当・障害児福祉手当の限度に準ずるもの‥‥360万円程度
B 老齢福祉年金の限度に準ずるもの‥‥150万円程度
・17都道府県で一部負担金が導入されています。とくに4都道県では1割の定率負担がすでに導入されています。
・給付の方法は19県で償還払いとなっています。
上記の調査結果は何を物語っているのでしょうか。対象者としては、SMAV型の人や成人発症の人の一部は、お住まいの地域によってはそもそも対象者とならないことになります。所得の制限は、Bの基準を導入している青森、福島、石川、滋賀、奈良、岡山、広島、山口、徳島、大分、宮崎のお住まいの人は、とくに配偶者や扶養義務者の所得も勘案される場合、単身者以外のほとんどのケースでは制度の対象から外れてしまうと思われます。12県では所得制限が皆無なのにです。また、1割の定率負担が導入されたということは、公費からは2割しか補助がないことを意味しています。償還払いとは、いったん病院の窓口で3割の全額の支払いを行って、その領収書を後日役所へ提出することによって支払いを受けるものです。とくに入院時には多額の現金を用意して、数ヶ月のあいだ立替える必要があります。高額療養費との調整が生じると、この立替えの期間はもっと延びることもあります。
つまり対象者の制限、一部負担金の増額、医療費の立替え払いの問題が、この障害者医療費助成には存在しているということができます。しかも住んでいる地域によって、制度に相当な開きがあることをぜひこれを機会に改めて認識してみてください。
■乳幼児医療費助成について
特定の年齢に達するまでの乳幼児が対象で、地方自治体によって対象年齢や対象とする医療が異なっています。対象年齢は就学前の6歳くらいまでの地方自治体が多いのですが、なかには中学生や高校生まで対象としているところもあり、また年齢によっては入院医療のみ対象となったり、通院医療も含めて対象となったりすることがあります。しかし一般的には、少子化対策や子育て支援のために、対象年齢や対象とする医療は拡大傾向にあります。この制度も国の制度ではなく、国からの補助も一切ない地方自治体の制度となっています。SMAとは直接関連のない病気やけが、歯科治療などでも、保険医療の範囲であれば、この制度の対象となります。この制度でも対象者の制限、一部負担金の増額、医療費の立替え払いの問題が存在することになります。
■その他の公費負担医療制度について
養育医療
未熟児医療とも言われています。指定病院に入院している1歳未満の乳児が対象となります。
自立支援医療
育成医療や更生医療は、指定病院での入通院に利用できますが、主として外科手術のような医療が対象とされています。
小児慢性特定疾患治療研究事業
20歳までの子どもの慢性疾患が対象です。現在514の疾患が指定を受けていますが、SMAは対象疾患に指定されていません。
措置制度
児童福祉法措置、進行性筋萎縮症児(者)措置による入院・入所です。
これらの制度は、いずれも指定病院における一定の範囲の医療に限られていますが、すべて現物給付となっているため、少なくても医療費の立替えの問題は発生しない点で大きな意味があると思います。国が負担金や補助金を出している制度は、おおむね現物給付となっています。
■特定疾患について
さまざまな制度が縦割りで存在するなか、最後に特定疾患の制度の概要と、それに指定を受ける意義について考えてみたいと思います。
特定疾患は、正式な名称を「特定疾患治療研究事業」といいます。国の難病対策には、調査研究の推進を目指す「難治性疾患克服研究事業」(国庫補助対象121疾患[2])と、医療費の助成を目的とする「特定疾患治療研究事業」(国庫補助対象45疾患[3])があります。SMAは前者の難治性疾患克服研究事業では「脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)」という名称で指定を受けていますが、後者の特定疾患には残念ながら指定されていません。国は特定疾患の目的を「原因が不明であって、治療方法が確立していない、いわゆる難病のうち、治療が極めて困難であり、かつ、医療費も高額である疾患について医療の確立、普及を図るとともに、患者の医療費の負担軽減を図る」としています。そして難治性疾患克服研究事業の対象疾患のなかから、学識者から成る特定疾患対策懇談会の意見を聞いて選定されています。
難治性疾患克服研究事業の対象疾患 SMAはすでにこれに指定されています。
次の4要素(@〜C)から選定し、現在、121疾患が対象となっている。
@希少性:患者数が有病率からみて概ね5万人未満の患者とする。
A原因不明:原因又は発症機序(メカニズム)が未解明の疾患とする。
B効果的な治療方法未確立 完治に至らないまでも進行を阻止し、又は発症を予防し得る手法が確立されてない疾患とする。
C生活面への長期にわたる支障(長期療養を必要とする) 日常生活に支障があり、いずれは予後不良となる疾患或いは生涯にわたり療養を必要とする疾患とする。
※難治性疾患克服研究事業の対象となると、難病対策の福祉サービス(ホームヘルプ、ショートステイ、日常生活用具給付)の対象となります。
SMAは、すでに難治性疾患克服研究事業の指定を受けているだけでなく、治療が極めて困難な神経難病であり、かつ医療費も高額となるなど、特定疾患に指定されるべき要件をすべて満たしていると思われます。その証拠として東京都と埼玉県では都県の単独施策として、SMAはすでに特定疾患の指定を受けているのです。
特定疾患の指定を受けることができれば、年齢に関係なく、障害者医療費助成や乳幼児医療費助成の対象から外れた人たち、あるいは高額の医療費立替え払いや過大な一部負担金の支払いをしなくてはならない状況を少しでも解消し、いつでも、全国のどこでも安心して医療を受けることが可能となります。これはとても大切なことではないでしょうか。
次に特定疾患の制度の概要についてお話をします。特定疾患は国の補助金による都道府県の事業です。特定疾患に該当するとの診断を受けた場合には、お住まいを管轄する保健所において特定疾患の申請手続きを行うことができます。治療研究期間は原則1年間となっているため、毎年10月を前に更新の手続きをする必要があります。この制度は、指定病院においてその主治医がその特定疾患と関連あると認めた医療に対してのみ適用となります。したがってその特定疾患とは直接関連のない病気やけが、歯科治療などは対象になりません。しかしこの制度は現物給付となっており、入院時食事療養費の標準負担額も対象となるため、入院頻度の多い人にとっては、医療費の立替えを行う必要が生じない点も含め、とても大きな意義があると思われます。なお対象とならない医療については、障害者医療費助成や乳幼児医療費助成の対象となる人であれば、そちらを利用することが可能です。
特定疾患には、前年の所得税課税年額による応能負担の一部負担金が設定されていますが、重症認定を受ければ全額公費負担となり、生計中心者が患者本人の場合には一部負担金の限度額が半額に減額されます。また同一生計内に2人以上の対象者がいる場合には、2人目以降の生計中心者でない方についての一部負担金の限度額は1/10に減額となります。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の場合、身体障害者手帳の肢体不自由1,2級に該当する人は、ほとんど重症認定を受けられるようですので、SMAが特定疾患の指定を受けた暁には、多くのSMAの人も重症認定を受け、一部負担金なしで安心して医療を受けることができると思われます。
現在、会ではSMAの特定疾患の指定に向けての具体的なアクションを始めています。制度は縦割りで複雑なためにとてもわかりにくいのですが、私たちも、現在ある制度を知り、足りない制度を提言していくような意識が必要なのではないかと思います。