2003年11月22日
東京オリンピックセンター
講師 : 下志津病院 理学療法士 北山徹先生 他
<排痰>
呼吸介助は排痰をするときにも効果有り。
手を添えて呼吸を整え、思いっきり息を吸った後「せ?の」と声をかけ咳と一緒に押す。
カフマシーン:ポンプで肺を強制的に膨らませ、目一杯膨らんだら一瞬で陰圧に切り替え人工的に咳を起こす機械。
(図11)
(図10)
<呼吸のストレッチ>
横隔膜も筋肉で動いている。萎縮していくと肺の上の方だけで呼吸をするようになり、換気が悪くなる。
肋骨の間にも筋肉がある。その筋肉をほぐすことも大事。アンビューバッグなどで強制的に肺を広げる方法も有効。(図10)
介助者に手伝ってもい、息を吐くときに横隔膜の辺りを後ろへ絞り込むように押す。吐ききったらすぐに手を離し吸気を妨げないこと。(呼吸介助) (図11)
慣れるためには、介助者はまず本人の腹部に手を添えて呼吸のリズムを把握する。
慣れてきたら吐くときに少しずつ押す力を強くしていくとよい。
(図9)
(図8)
(図7)
<背骨のストレッチ>
背骨はまっすぐ立っても前後に曲がっているもの。 (図7)
その状態がゆがんだりねじれたりしてくると胸郭も曲がり、中に入っている肺に負担をかける。
側わんで狭くなった肺は膨らまないので空気が入っていかないし、開ききってしまった方は息を吐いても縮まないので息を
吐ききれない。
肋骨があるところが曲がりにくい。曲がりやすいのは肋骨がなくなった胸郭から骨盤の間(図8)
予防のため、仰向けに寝て膝を立て、左右に振って脊柱の周辺の筋肉をほぐす。
両肩があまり浮かないように等尺性運動で行う。(図9)
(図6)
●歩いている方:
特に立ち上がりで一番使う部分=膝を伸ばす筋肉が弱くなってくると
立っていても膝ががくがくし立てなくなる
→お腹を突き出して膝を伸ばしきって膝の関節をロックした姿勢になりがち (図6)
つま先立ちで、アキレス腱も萎縮して短くなってくる
ふくらはぎの筋力は沢山使うが足首の周辺の筋肉が硬くなる
(アキレス腱を伸ばす運動) 急に強い力を掛けると腱が切れてしまうので、
等尺性運動でじっくりゆっくり伸ばすこと
(図5)
(図4)
●下半身について:
筋力が低下していくと寝たときにひざが両外側に開いた感じで膝も
少し曲がった感じになる。(腿の外側の筋肉が萎縮するため) (図4)
各関節周辺の筋力の低下により、関節も少し浮いた感じになり、ずれ
てくる。 (図5)
→変な角度で持ち上げたり引っ張ったりすると関節が外れやすいので
股関節など注意が必要。
(図3)
等尺性運動:筋肉の長さを一定にする力を加える
*自分の力に合わせて負荷量を決められる点で好ましい (図3)
等張性運動:筋肉に一定の重さの負荷をかける
*自分の筋力を正確に知っていないと過負荷による筋損傷を起こす可能性あり
等速性運動:筋肉を一定の速度で動かす
<運動の種類>
(図2−B)
(図2−A)
(図2-@)
<筋萎縮の予防>
(図1)
廃用性筋萎縮
使わないことで萎縮し弱くなっていった筋肉のこと。
細胞の中の核の中にあるRNAが、タンパク質を合成・分解する。
ねずみのしっぽをひもでくくり、後ろ足が一定の期間床に着かな いようにして
おいた実験で、その後ろ足の筋細胞を採取して調べ た結果、核の中にある
RNAが減っていた。(図1)
このことから、 筋萎縮は筋肉の本数が減るわけではなく、RNAが 減ることに
よって起こることが分かる。
SMAに対するリハビリ
SMAは生体の再生能力が侵されていく病気なので、リハビリによって筋力を回復させたり症状を改善し、治すということは
残念ながら難しい。良くて現状維持。症状の進行を遅らせるということを第一の目的として対応していくのが現状である。
<質問>
Q1・・膝を伸ばしきった姿勢というのが膝には良くないのですか?電車の中ではそういう姿勢をせざるを得ないのですが。
A1・・悪いとはいいきれません。ただ、その姿勢では負荷がかかる筋肉にバランスが取れなくて硬くなってしまうと言うこと
です。使わなければ使わないで筋力が低下しますので。
筋ジスの場合:身体に近い部分から筋萎縮が始まった場合=逆に前屈みになり腰をカバーしてべた足になりがち。
筋肉の萎縮する部位によって姿勢や負担をかける部分も変わってくる。
Q2・・マッサージ屋さんでも同じようなことをやってくれるけれど、何が違うのか。リハビリに掛かっても同じようなことをやって
くれるのか?
A2・・リハビリは医療の一部として患者さんに関わるので、医者からの指示がないと基本的に単独では内容を決めたりは
できません。マッサージ屋さんは単独行動なので、その人その人の判断で施術を行っています。
Q3・・SMAのことを正確に理解してくれているドクターはそんなにいない。ドクターからPTに正しいメニューが指示されるか
どうかは分からない。実際「できないことをできるようになりましょう」と言われて、そういうプログラムを組まれ、
無理な運動をしたことで余計な筋力低下を起こした経験もある。結局一番自分の状態が分かっているのは自分だ
と思う。かといって医療の現場では患者の方からこういう内容でやって欲しい、とは言いにくい。
そういうと「じゃ、マッサージの方にでも行ってください」と言われそうで怖い。
A3・・実際はドクターから来る指示は大まかなものだけで、細かいメニューを組むのはPTなので、その時に一緒に考えたり
意見を出してもらっても構わないと思います。
リハビリとは、症状に対して行う処置なので、どういう病気かと言うことを知らなくても、例えば関節が硬いのでストレッチ
をしましょうとか、そういう対処はできると思います。でも、症状のバックグラウンドを理解してもらっている方が安心だと
いうのは分かります。実際、整形外科的なリハビリと神経筋疾患に対するリハビリは目指すところが違いますからね。
Q4・・歩くだけでは鍛えられない部分を強くするにはどうしたらいいですか?
A4・・今ある歩行能力を向上させるということは、病気の性質上リハビリには限界があります。歩けなくなる原因は筋力
低下だけではなく、関節とか萎縮とかいろいろあります。ストレッチなど、その原因にあった改善方法を考えていかな
いといけません。筋力増強だけを考えていくと逆に筋肉を痛めることもあります。原因がなんなのかとか、どこの筋肉
が一番負荷がかかっているかなどは、病院のリハビリ師などに聞けば分かる部分があります。
●留意点
・リハビリではSMAに対しては症状を改善することは難しい。良くて現状維持。しかしそれを理解して、この病気とつき
あっていくことが大事。
・骨折したり、風邪を引いて寝込んだりがきっかけで今まで歩けたのが歩けなくなる、ということもある。
日頃の健康管理も重要である。
●参加者の意見
車椅子を使う立場から言うと、歩ける内はなにかとその能力に執着しがちですが、車椅子を使った方が
世界が広がることもいっぱいあります。旅行に行っても「私はここで待っています」ということが多くて切なかった事も
ありました。もちろん自分の身体が自由に動けるにこしたことはないですが、無理して身体を壊すより便利な道具を
もっと活用して自由に動くことも、もっと考えていったらいいと思います。