第12回関東支部定例会
『国立精神・神経センター川井充先生』講演会・医療相談
2002年11月23日(土)に開催されました関東支部定例会にて『国立精神・神経センター 武蔵病院 第2病棟部長
川井充先生』よる成人会員対象の講演・医療相談が行われました。ここではその講義・相談内容を掲載いたします。
今回は特に成人の方の「脊髄性筋萎縮症」ということですが、「子供さんの病気の成人型」というように診断されていても、実は違うということが大変に多い。そういう意味で、今日は、ひとつの病気を念頭に置いての話になると、皆様自分のケースに当てはまらないということにもなるかもしれませんので、まず、最初に、「筋肉の力が弱いとはどういうことか」ということについてお話しようかと思います。それから、「運動神経が悪くなって筋力が弱くなる」という病気をいくつか挙げて、それらについて簡単にお話をしようと思います。そして3番目に、「こういう病気になったとき一番注意しなければいけないことは何か」ということについてお話ししたいと思います。
ではまず、「筋肉の力が弱いとはどういうことか」についてですが、これは「力が出ない」ということです。思うように身体が動かない、ということにはいろいろな原因があります。
脳の中に、身体のいろいろな場所を動かすための指令を出す箇所があります。ものすごく簡単に説明しますと、運動に関係する神経には2つの種類がありまして、ひとつは大脳、もうひとつは、脳幹かあるいは脊髄。つまり、頭の中にある脳、それと脊髄というのは背骨の中にある神経のことです。これは脳幹を通してつながっています。かなり原始的な神経です。大脳にある神経を私たちは「上位の運動神経」と呼び、それに対して脊髄の方を「下位の運動神経」と呼んでいます。大脳にある上位の運動神経から命令が出され、それが脳幹、脊髄にある下位の運動神経に伝えられます。そこから筋肉に命令が伝えられます。、結果から言いますと、このうち、どこが悪くなっても力は入らない。筋ジストロフィーという病気がありますが、あれは、上位・下位の運動神経は正常なんです。筋肉自体が病気であるためにだんだん筋肉がやせていってしまう病気です。そして、筋ジストロフィーに限らず遺伝の筋肉の病気というのは、だんだんと進行していく筋力低下が主な症状です。
本日は「脊髄性」と言うことですので、筋肉の病気の話は省略させていただきます。ただ、症状は筋肉を通して現れますから、筋肉についての話は触れさせていただきます。
さて、皆様の中に、「球脊髄性筋萎縮症」という病気だという方がいらっしゃったと思います。別名ですが、神経内科では人の名前を病気につけることが多いのですが、この場合、ケネディー・オルター・スンという3人の名前が付いています。(ケネディー病と省略することもあります)さて、「球」というのは何でしょう。「球根」の「球」ですね。英語ではバンプですね。脳の中に似た形をしている部分があります。それが、脳幹の一部で「延髄」というのですが、その延髄を表すときに「球」と言うことがあります。つまり、球脊髄筋萎縮症というのは、脊髄の続きみたいな所に脳幹があるのですが、その中の延髄が悪いということになります。では、その中のどこが悪いのかというと、下位の運動神経が悪い、ということになります。
私たちがこの病気の診断をするときにものすごく重要なことは、脊髄性筋萎縮症、あるいは球脊髄性筋萎縮症とは、「上位」の病気ではない、「下位」の病気だということです。上位の運動神経の症状がないときに、私たちはこういう病気の診断をつけます。では、上位の症状があったときにはどういう病名をつけるのかというと、「筋萎縮性側さく硬化症」というのが一番多いです。上位と下位、両方が病気である場合です。上位ニューロンに異常があると随分症状にも違いが出てきます。たとえば皆さん、お医者さんに膝の辺りをハンマーで叩かれたりしますよね。あのときの反射が出やすくなったりします。また、下位ニューロンの方の筋肉はあまり萎縮しないですが、上位の筋肉はとても萎縮する。お話の仕方が随分違ってきます。
では、これから下位の運動神経のお話をします。
神経細胞は脊髄の中にあり、脊髄から長く神経の突起を出し、体中に広がっています。行き先には筋肉の細胞があります。すべての筋肉の細胞は運動神経細胞とつながっています。すべての筋肉の細胞とは、目を開けたりする筋肉から、手足を動かす筋肉、それから呼吸をするための筋肉とか、排泄をコントロールする筋肉などです。皆さん、焼き鳥など食べると思いますが、あのお肉は裂けますよね。あのように、筋肉というのは一本一本非常に細いけれども長い線になっているのです。大人の人だと直径が60ミクロンくらいあります。1000ミクロンが1ミリですから、1000分の60ミリですね。それが束になって筋肉となっているのですが、その一本一本が運動神経によってコントロールされている。そして、運動神経の方が筋肉の数よりもずっと少ないので、一本の神経の先が何本にも分かれて沢山の筋肉をコントロールしているということになります。何本の筋肉をコントロールしているかは、その場所によって異なります。目玉などは少ないです。微妙な動きをする場所ほど数は少ない。足のように大きな動きをする場所は一本の神経で沢山の筋肉をコントロールしています。ひとつの筋肉に対しての運動神経は10個も20個もある。それで、いろいろ運動神経が混じり合っているのです。隣の筋肉の繊維は別の運動神経がコントロールしている、いくつかの運動神経がいくつにもわかれて、沢山の筋肉の繊維をコントロールしているのです。それで、もしこの運動神経がダメになったら、まさにこれが皆さんの病気の本質なのですが、これらのプロセスが全部なくなってしまう。ダメになった神経に支配されていた筋肉は痩せてしまうのです。60ミクロンくらいあったのが、10分の1になってしまうので、断面積はその100分の1となります。顕微鏡でみたらもちろんですが、目で見てもその筋肉はものすごく小さくなってしまう。一本の神経が支配していた筋肉が全部痩せてしまうのです。でも実際にはその通りにはならなくて、もう少しいいことが起きます。ダメになった神経の代わりに、他の健康な神経が枝分かれしてカバーするのです。だから予想しているよりもひどいことにはならないのです。しかし、20個あった運動神経がとうとう3個か4個になった場合、その1個が落ちたら、結構被害は甚大です。一本の神経で沢山の筋肉を支えていたわけですから、その一本が落ちたら筋力の低下もどんと来る、ということが起こって、実際症状が出るということです。
脊髄性筋萎縮症の方の中には、手の指先や舌が震える、という症状のある方が結構いらっしゃると思います。それはどういうことかというと、力を微妙にコントロールすることができなくなっているのです。私たちは力を微妙にコントロールすることができる。なぜかというと、使う運動神経の数を上手く調節できるからなのです。1個から20個までの数の中で連動的に変えられる。それが、数がすごく減っていたら、がくんがくんがくん、としか変えることができない。だから微妙な力を入れるときに、「力を入れる、抜ける、入れる、抜ける」という様に繰り返すと、結局筋肉が止まっているみたいになり、震えという現象に出てしまうことになるのです。私たちも診察の時によく拝見しますと、微妙に手を動かそうとしたとき表面がぴくぴく動いている。ここにいらっしゃる方の中にも何人かそういう方が見受けられるかと思います。ただ、皮下脂肪が多いとそれがなかなか見えないので、私も診断の時には苦労しています。これらのことで私たちは筋肉の病気と神経の病気を区別することができるのです。これが、どうして筋肉に力が入らなくなるか、ということについての話になります。
会員Q:寝ているときに震えるということはどういうことでしょうか?
先生A:寝ているときに震えますか?身体の力が抜けているときにはそんなに震えることはないと思うのですけれど。もし本当に身体の力が抜けていて、静かにしているときにも震えがあるようでしたら、それはまったく違う病気になります。だから、なにかしらの力が入っている、もしくは、最大限に力を入れたときより、中間程度力を入れたときの方が震えやすいです。夢でも見ているとか、何か力が入っているのではないでしょうか。
完全に力が抜けているときに震える場合ですが、先ほど出てきましたALSという病気、あの病気の方は完全に力が抜けているときに震えが出ます。それが診断の材料にもなります。それから舌の震えについてですが、舌はものすごく微妙な動きをする筋肉でして、非常に細かい細胞のコントロールを受けているのです。その運動神経はどこにあるかというと、脊髄ではなくて延髄にあるのです。で、脊髄性筋萎縮症の患者さんでも、やはり延髄の神経の病気もあるのです。あまり目立たない症状で、きれいな話し方をされる人が多いのですが、よく見ると舌が細かく震えています。かなり小さいときからそういう症状があると思うのですが、それは脊髄ではなく延髄の運動神経細胞が減っているためにそういうことが起こり、症状が出るのです。お顔の筋肉も、特にケネディー・オルター・スンの方は震えがあります。
会員Q:先程、ダメになった運動神経細胞が支配していた筋肉を、まだダメになっていない神経がカバーするというお話がありましたが、そのカバーする仕組みを促進するための運動など、何か方法はあるのでしょうか?
先生A:とてもよい質問ですね。結論から言いますと、筋肉は使ってないとなくなてしまうのです。
例を2つ出しましょう。ひとつは宇宙飛行士です。ソ連とかは予算がないとかで1年くらい宇宙においておかれるらしいのですが、地球に戻ってくるともう立てない状態だそうです。力を入れていない筋肉というのは、病気ではなくともなくなってしまいます。だから使っていなければいけないのですけが、だからといって強くしようとしてトレーニングするのは、私は避けた方がよいと思います。それは何故かというと、最大限入れられる力というのは何によって決まるか?それは筋肉の断面積によるのです。10センチの径の筋肉と1センチの径の筋肉は、径で言うと10倍ですが、断面積で言うと100倍なのです。そうすると、どんなに頑張っても出せる力は100対1なのです。そのくらい当たり前じゃないかと思うようなことでも、痩せた筋肉にとってはとんでもない負担がかかります。トレーニングなどをやったあと、その部分の筋肉をMRIで見てみると炎症が起こっています。炎症が起こっているということは、そこで、筋肉が何本か死んでいることになります。これは、筋肉が弱くなる病気ではない我々でも一緒です。登山などして、特に普段運動不足だという人は、筋肉痛を起こして次の一週間痛くて仕方がない。それはもういくつか細胞が死んで、筋肉が炎症をおこしているのです。でも、必ず元に戻ります。
ところが、こういうような問題がある方の場合、後始末が大変なのです。やはり神経がなくなってしまうと、他の神経がいろいろなことをやらなければならないのです。もともと自分も病気で頑張っている神経にとっては非常に負担をかけてしまうことになります。ですから、翌日まで痛みが残るような筋肉の使い方はなるべく避けた方がよいと思います。それから、実際に筋肉をとってみてみると、先ほどの球脊髄性筋萎縮症の患者さんの筋肉にはかなり壊死を起こしているものが見つかります。皆様お聞きになったことがあるでしょうか。クレアチンキナーゼというものです。この酵素が血液中で高い数値を示すと、筋肉が壊れているということになります。
したがって、筋肉はもともと無理をしているのではないかな?と思うので、やりすぎはよくないと思います。どこからがやりすぎかというのはうまく言えないのですけれど、痛くなるのはやりすぎだと思います。
会員Q:リハビリなどで頑張った結果、余計筋力が落ちてしまった・・・という話を聞いたことがあります。身体の筋肉とは、全部が均等に落ちていくものではないのでしょうか?
先生A:はい、違います。だからこそ難しいのです。ひとつの運動に使われる筋肉はひとつではないのです。例えば、自転車をこぐというひとつの動作でも、お尻の筋肉からふくらはぎの筋肉まで全部使うわけです。その筋肉の中でよい状態の筋肉と悪い状態の筋肉があるのですから、よい状態の筋肉にはこれくらいへっちゃらだと思っても、悪い状態の筋肉にとってみれば、かなり負担となります。ですから、痛くなるのはだいたい悪い状態の筋肉と考えられます。
会員Q:クレアチンキナーゼの数値で筋肉の壊れ具合が分かるのであれば、その数値をリハビリ時の目安にすることはできないものでしょうか?
先生A:実際、運動した後のクレアチンキナーゼの数値は一度に上がって、そしてまたゆっくり戻るのですよ。だから、何回も採血しなければいけないので、私はあまりお勧めしない。それから、もともとの値というのも、神経の病気の人は徐々に下がります。入院などをしていると下がったりします。でも、外来で見ると結構高かったりもします。
それを正常に戻す必要は私はないと思うのですが、その人の正常値よりもずっと高い場合には、やはり問題ですよね。正常な値というのは男の人は200くらいですけれど、400、500程度の人もいます。
では、次に病気の説明に入りたいと思います。
上位ニューロンの病気と筋肉の病気を抜かすとどのような病気があるかということですが、主に2つあります。ひとつは脊髄性筋萎縮症、SMAといいます。もうひとつが球脊髄性筋萎縮症、ケネディー・オルター・スン病、スンというのは韓国の方のお名前らしく、3人の方のお名前です。この2つの名前は似ていますけれど、全く違う病気です。原因も何も全く違います。
おそらく球脊髄性筋萎縮症の方は、小児科にかかることはないですね。もう、まず間違いなく神経内科にかかります。こちらは、通常20代くらいからですが、早い人だと10代くらいから病気が始まります。遅い人だと40歳代くらいでしょう。脊髄性筋萎縮症の方は、早い人だともう生まれたときに問題が起こります。生後直後です。遅い人は、先程斉藤先生に伺ったところ30代くらいの人がいらっしゃるそうです。でも、極めて希ですよ。
ところで、なぜこのように違うのに、はっきり同じ病気(SMA)かというと、遺伝子が分かっているのです。但し、遺伝子の検査でも100%とは言い切れないこともあります。(斉藤先生:1型と2型は95%で、3型の場合は70%です。)というのも、一個一個決めていっているわけではないのです。例えば、ここに本があります。この本のどこかに一字間違いがあると言われたらどうしますか?探すのは大変なことでしょう。原稿と一字一字比べてみないといけないですよね。それをやれるかどうか、という問題がひとつあります。実際には、この本の何ページから何ページがない、というような間違いなら随分簡単になりますね。極端な話、厚みを見れば分かるという。そういう間違いは見つけやすいですね。
実際、患者さんへの検査ではなく、サービスとしてやる場合には、やはり一字一字調べるというのはできないので、何ページから何ページまでがないという様な感じの検査を大体やっているのです。そういう風にして見つかる、というのが先程言いました95%とか、そういう率なんです。だから、そこで異常が出なかったからこの病気ではない、とは言えないと思います。遺伝子検査において30歳代で異常が出たということになればやはりそれは同じ病気だと今は考えるのです。
遺伝子が違えばどんなに似ている症状でも違う病気ということにしています。SMAの場合はほとんど遺伝子で診断できる病気です。一番重症の型になりますと、生まれてまもなく呼吸も十分にできなくて、たいていの場合保育器に入るのだと思います。30代になりますと、もう社会生活をしていらっしゃって、お仕事もしていらっしゃる。それくらい差があるのです。同じ遺伝子で、どういう場合にこうなりやすい、ということは分かりますが、完全に遺子の状態で障害の重程度を予測できるかというと、それはまだ難しいです。では何故難しいかというと、出世以前診断の問題があるからです。遺伝子の異常があるからどうなんだ、という話をやはりしなければいけない。これは話し出すと際限なくなるので今日は横に置いておきたいと思います。
この病気のときは、呼吸の問題が大きいです。これはどういうことを注意しなければいけないか、という後の話でもう少し詳しく話しますが、この病気は、横隔膜の働きは比較的残る傾向があると思います。どちらかというと、肋間筋の動きが悪くなります。これは病気によって違うのですが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーは横隔膜に現れます。私たちもそういうことに注意しながら診ています。それから、比較的お話はよくできます。むしろしゃべり過ぎなくらいでしょうか。(笑)本当によくしゃべりますね。頭がよいのだと思うのです、私は。口の辺りの筋肉は、診察すると必ず症状はあるのです。先程もどなたかおっしゃっていましたが、舌が震えているとか、そういう症状は必ずあるのです。しかし、比較的機能としてはよく保たれています。一方、身体の方は、特に体幹に近い方から筋肉の力が衰えます。
先程斉藤先生に伺ったら、SMAの1、2、3型という分類は世界共通なのですが、3型は、その後立てなくなった場合でもいいのですが、一度でも立つという機能を獲得した人、2型は座るという機能を獲得できた人、1型が座れなかった人、という風に分けているのです。人によってはSMA4という人もいるみたいですが、斉藤先生がおっしゃったのが一番わかりやすいと思います。(斉藤先生:そうですね。3型の人でも、最初はウェルドニッヒだと、1型だと言われて、後になって3型だと診断されたり。過去においてはそうだったのですが、1994年に一応きちんとしましょう、ということになりまして。ただ、今でも、医者によってはこの国際分類を認識していない人もいますので、その辺の混乱はありますね。)1型がWH型、ウェルドニッヒ・ホフマン病、3型がクーゲルベルクヴェランダー病と言っています。2型は中間型と言われています。でも、すごくこれに捕らわれなければいけない、とは考えていないのです。特に、3型はものすごく個人差が大きくて、もしかしたら、この中にいろいろな病気が混じっている可能性が、私はあると思うのです。SMA3型だという診断がついている患者さんで、遺伝子できちっとした根拠がないと、まず私なんかは疑って考えます。というのも、他の可能性の方が高いかも知れないからです。極端な場合、筋肉の病気が誤診されていることもあります。
球脊髄性筋萎縮症は、やはり10代で発症の人もいます。20代と書きましたが、むしろ、こちらの方が私たちはよく診ます。実際患者さんは多いです。これは外国の文献ですが、人口10万人当たり2.5人いると言っている人がいます。成人の遺伝性の筋萎縮症で一番多いのが緊張性筋萎縮症という病気で、これが大体人口10万人当たり5人くらいいるのですが、その半分はいると言われています。こちらの病気は社会生活をされている人が多いし、障害も、実際年齢が上にならないと困らないとか、もしかするとあまり困らないまま一生終わっている人もいる。そういうこともあります。この病気は、球、延髄というだけあって、表情を作るお顔の筋肉や、舌や喉、といった場所に結構はっきり症状が出ます。脊髄の方は上肢の方にかなり症状がでます。それがひとつの特徴です。それから、お茶を飲もうとか、新聞を持つとか、ある動作をしようとしたときに震える、というのが結構目立ちます。それから、結構左右差があります。非対称です。それから、診察すると大体感覚障害があります。特に足の先の方です。ある年齢になると感覚が少しずつ落ちてくる。それと、大事な症状に筋痙攣があります。こむらがえりです。これはとても困りますね。突然筋肉が痛くなって、特に急に力を入れたりするとき、寝返りを打つときとか、急に痙攣が起きたりしてとても辛い。それから、ほんの少し乳腺が張ってくるのです。女性化乳房。それから、少し糖尿病の人が多いような気がします。あとは、少し子どもができにくい人とか、性機能が少し落ちているとか。
大事なこと言い忘れましたが、これらは全て男性です。X染色体の上に遺伝子があるからです。
脊髄性筋萎縮症の場合は、性染色体性の病気ではない。だから男の子でも女の子でも基本的に同じように生まれる。ですが、球脊髄性筋萎縮症は男の子しか生まれない。この場合、ご両親は病気ではありません。診察しても何も問題はありません。ただ、遺伝子を持っていらっしゃる場合がほとんどだと思います。こちら(球脊髄性)は女性を通じて遺伝します。
しばしば患者さん、結婚していらっしゃるから、お子さんが居られます。でも、男の子は病気にならない。女の子は病気の遺伝子を持つ保因者になる。その女の子が結婚して子供が産まれると、その方が病気になる。こういう典型的な隔世遺伝です。間に一代入っておじいさんの病気が孫に出る。
こちらの病気で一番大きな問題は嚥下障害です。ものが飲み込みにくい、間違えて食べ物が変なところに入ってしまう(誤飲)、というのが大きな問題です。この2つの障害が主で、他に、区別しなければいけない障害もいくつかありますが、それは今日はおいておこうと思います。
もうひとつだけ申し上げておきますと、ALSという病気で、お医者さんが一生懸命この上位運動神経の症状を探しても見つからない場合があります。そういうときにALSと思いつつも、証拠がないからそう診断をつけることができなくて、よくここに進行性とつけるようです。進行性脊髄性筋萎縮症、SPMAと診断する場合があります。でも、後にやはりALSだった・・・と、分かってくる場合があります。お医者さんにとってもかなり悩むところなのです。経過が随分違うので・・・
会員Q:たがいの病気が合併することもありますか?
先生A:2つの病気が合併する例は、私も本当に希に聞くことがあります。しかし、その2つの病気が合併したらどうなるのかは分かりません。そもそも希な病気がさらに合併するということは、かけ算になります。だから極めて希と考えていいでしょう。
会員Q:遺伝子検査は行っていないのですが、ALSと脊髄性進行性筋萎縮症は遺伝子検査で区別ができるのでしょうか?
先生A:ALSはほとんどの場合、遺伝子しない病気です。ごくごく一部の患者さんに、家系の遺伝子の異常によってこれが起こっているという場合があります。ですが、ほとんどは遺伝しない病気です。こちら(脊髄性進行性筋萎縮症)の病気は、先程斉藤先生もおっしゃいましたけれど、遺伝子の異常が見つからなかったからと言って、この病気じゃないとは、今の段階では言い切れないのです。
会員Q:現在、治療法はないと聞きます。では、ALSに使うような薬を使うことに支障はないでしょうか。
先生A:ALSでないならば、私自身はあまりお勧めできることではないと思います。他にないからやろうというのは、私自身はあまりやりたくないです。というのは、リルテックでしょ?リルテックという薬は、日本で臨床試験を行った結果、有効性が確認できなかったのです。でも、海外の臨床試験で有効であるという結果が出ている。それと、患者さんの要望で許可した薬なのです。実際に使ってみてこれがよかった、という患者さんの例は、私は1人も経験していません。そこまで言い切ってよいのかどうか分かりませんが、飲んだ場合と飲まない場合とを比較できていません。ですが、ALSの場合は、厚生労働省が承認した薬だから、患者さんが使いたいとおっしゃった場合は、私は処方します。処方していますけれど、もし具合が悪くなったら止めましょうね、と言っています。というのは、何も薬がないのに処方しなかったら、あの先生何もやってくれなかった、ということになりますから、私自身はそれは出さざるを得ないと思っています。けれど、本当に他の病気なら、これを、ということはしたくないと思います。
会員Q:かつて「進行性脊髄性筋萎縮症:SPMA」と診断されました。「進行性」が先に付きました。どこ調べてもそのような病名ないじゃないかということがありました。それがいつの間にか、Pを取るようになった。どういうことをもってPをつけるのか、もしくは、なぜ過去には付いていたPが取れたのか、どういうことなのでしょうか?
先生A:なぜ取れたのかは分かりませんが、なるだけPは取るようにしているのです。というのも、筋ジストロフィーも昔は(と言っても今でも使っている人もいますが)、「進行性筋ジストロフィー症」と言ったのです。まず、「症」が取れた。ジストロフィーの中にもう「症」は入っているから、使うのを止めようと。そして、最近は「進行性」も使わないです。「進行性」という言葉は落ちていく傾向を指すようで、患者さんも聞かされてあまりいい気持ちはしないし、私たちもなるだけ「進行性」という言葉は言いたくないという気持ちがある。つまり、古い言い方なのです。
会員Q:KW(クーゲルベルクヴェランダー)ですが、50歳で発症という方が居られました。先程のお話ではおよそ30歳くらいでの発症となると伺いました。球脊髄性だと20〜40歳。SPMAでもなく、又、どれにも該当しない・・・そういう方は何人かいらっしゃるのですか?
先生A:私の場合、20歳以上で異常に気づかれた方の診断の時には、患者さんの訴えていることは尊重しますけれど、自分で病気を判断されているような場合には疑ってかかります。後に遺伝子の検査でそのような結果がきちんと出たときに初めて「やっぱりそうだった」と考えます。診療の中でついている診断名を尊重するものの、常に経過を確認する必要があるかと思います。
次に薬物治療についてお話します。
薬物治療については、結論から言うとありません。
よく患者さんから聞かれますので、ちょっと整理しておきたいと思います。効く薬があると聞きましたとか、新聞に載っていましたとか、あるいはホームページにこういう薬があると書いてありましたとか、そういうことがよく質問であります。
皆様がおかかりになっている日本の病院はほとんどすべて保健医療機関です。そこで出してもらえる薬というのは、厚生労働省が承認した薬だけです。厚生労働省で承認されるためには、製薬会社で治験を実施、データをすべて厚生労働省に提出し、これはよい、ということになって初めて売られる。それ以外の薬をなんらかの方法で患者さんに出すということは、保険医療機関では認められていない。まず、基本的にその点だけはご了解いただきます。それでも、それ以外の薬がどうか、という話がやはり巷でされるし、実際私たちがそういう治療をしている場合があります。それは何かというと、はっきり「研究」なのです。或いは違法です。あれが効くかも知れないといって自分でアメリカから輸入して飲む分には違法ではないかも知れません。でも、お医者さんが承認されていない薬を処方するということは違法なのです。けれど、それではあんまりだ、というのがひとつ。それからもうひとつは、それでは進歩しないだろう、ということです。こういう薬が根拠あって効くのではないかと思った場合に、医者がむしろ胸を張って出せるようにするのが、本当の仕事ではないかと思います。そのためには、研究として、その薬が効くのか効かないのかをはっきりさせるのが私たちの仕事だと理解しています。そのためにどうするかというと、それぞれの大学に、私の場合は精神・神経センターですけれど、そこに倫理委員会というのがあり、「この薬を使って効くか効かないか調べたい、ついては承認してください」ということで、委員会の承認を得ます。(その場合は非常に厳格な手続きを要します)承認を得て初めて研究をスタートさせます。それからもうひとつは、医薬品救済機構というのがあり、厚生労働省が認めていないものは救済されない。ですので、厳格な手続きを踏んでいない限り、私たちはそれを不十分な研究だと考えます。
患者さんには、もちろん、自分の病気がよくなるようにという想いがあると思いますが、研究に参加する、という認識をもってお薬を使用する、ということであって欲しいと思っています。
それと、小児の薬はほとんど認められていないのが現状です。お読みになると分かると思うのですけれど、「この薬は小児においては安全性が確かめられていません」という薬ばかりです。そういう厳しい現状の中で、小児科の先生たちは毎日仕事をしていらっしゃるのですよね。
原則をいいますと今私が申し上げたとおりです。特にしっかりした病院では、厳密にやるように努力しています。
いろいろなホームページをお調べになると分かると思いますけれど、いくつかの薬を臨床試験しているところがあります。これは外国です。ひとつは「クレアチン」です。これは処方でなくても買えるので、健康食品として飲んでいる方がもしかしたらいらっしゃるかも知れません。ただこれは、自分の判断で使用するのは、私はちょっと考えた方がよいと思います。よくよくお医者さんと相談なさってください。ある研究班において、筋ジストロフィーの患者さんに対して、このクレアチンを使って筋肉を少し強くするということを試みている施設が2カ所あります。(それはやはりそれぞれ倫理委員会を通してきちっとやっています。又、結果をしっかり報告するということが義務なのです。)中間報告ですが、筋肉の力が多少ついた人もいる、という程度であって、これは決して治るということではありません。それから外国の論文で、ガバペンチンという薬を使うトライアルをやったと。この件、有効性は確認できなかった、と書いてありました。そうやって必ず、やってどうだったか、ということが載っていればその薬は使う意味がない、ということが分かるのです。こういった手続き、研究なしに、根拠がないで使うということを私は心配します。
そういうことよりも、できることをきちんとやる、という方が大事なのですよね。1日が終わったらストレッチをして筋肉をちゃんと伸ばしてください。そうしないと筋肉がだんだん短くなってきて、身体の変形が起こるとあとがなかなか大変だと思います。今お子さんがいらっしゃる方は、斉藤先生からいろいろご忠告を受けているかと思いますけれど、背中の曲がり、が非常に重要ですから、これからも注意なさっていくようにしてください。背中の曲がりは何がいけないかというと3つあります。まず、見た目、きっとご本人が気になさるのではないかと思います。そんなのどうでもいいと思えるようになってくると立派なんですけれど。
2番目はやはり座ったときのバランスが悪くなります。それに横になったときも、当たる場所が決まってしまい、寝たときの姿勢が辛くなります。なにより私が心配するのは、呼吸の管理がしにくくなります。肺活量を制限したりと、いろいろなことがありますので、そうならないようにできるだけ努力する必要があると思うのです。
又、最近は結構手術していらっしゃる方もあります。但し、経過を追って急に背中が曲がりだした時点のタイミングを逃すと難しい。整形外科の先生は、特に呼吸機能が40%を下まわった場合、手術はしたくないとおっしゃいます。タイミングや必要性については、よく主治医や整形外科の先生と相談なさることが肝心です。もちろん、手術ですから危険性もともなうでしょうし、良い面、悪い面がそれぞれ考えられるでしょう。これらも研究過程にあると思います。ここでは、このような方法もあるとだけご紹介しておきます。
一番良い方法を選択できるよう、よく相談なさってみてください。
続いて脊柱の変形にともなう症状。
特にSMAの場合、変形にともなう呼吸機能低下が問題になる。お話中、よく息継ぎなさる方など、診察中にも症状はみてとれます。安静にしていて(ベストな状態で)酸素をきちんと摂りこめるか、風邪のとき、痰がきちんと排出できるか、これらのことを注意するのに重要なのが「呼吸機能検査」です。定期的になさっている方は継続なさってください。症状にもよりますが、年に1度は必ず行うとよいでしょう。これは球脊髄性筋萎縮の方も同じです。共通して重要なことです。
もうひとつ、注意しなければならないこと、嚥下について。これは特に球脊髄性の方、誤嚥がありますと、肺炎をおこす。当然、痰を出すために多く咳をする、疲れる。
朝起きたときゼロゼロする、食事後どうも調子が悪い、痰がきり難い、そのような場合は早めにお医者さんに相談なさって、検査を受けてください。そして、検査結果(レベル)によっては、お食事の内容を変えるなど、適切な指導をお受けになってください。これらふたつの点はよく注意なさっていただきたいと思います。又、結果(レベル)によってはNIPPV(鼻マスク人工呼吸)をはじめは夜間、食事後に使用するなど、方法もあります。これは徐々に使う時間が延びますが、うまく使いこなせれば長くつきあえる方法です。
いずれにしても、日頃から胸(肺)を十分にひろげる、機能を保つということが重要です。急いでポイントだけお話しました。
会員Q:TRHホルモン注射を受けたらどうかというお話があるのですが、いかがなものでしょうか?また、あまり副作用がないと聞きました。副作用の有無についておしえてください。
先生A:やはり、先程のお話になりますが、効果を確認できている状態ではないです。治験の段階です。海外も含め何例か臨床報告がでていますが、きちんと効果が認められたという報告はありません。経口薬が出ましたが、その効果についても確認されていません。もともと脊髄小脳変性症の薬で、SMAは対象外です。副作用には、稀に嘔吐があると聞いています。(A:斉藤先生)
やはり、お薬というのは、効くか効かないかで判断したい、副作用が少ないから試すというのは、あまり好きな方法ではないです。効果が分からない時点で、根拠があり、きちんと手続きをし、患者さんにも説明をし、治療研究を目的にというのならわかります。ですが、あまり効果がでていない、とわかっている薬を、副作用が少ないからと続けて使うというのは、あまり私はおこないたくないことです。(A:川井先生)
会員Q:呼吸機能が急に落ちるということがあるでしょうか?
先生A:特に成人発症の方の場合、(ALSを除く)急に機能低下するということはありません。100%だった方が、急に20%に下がるということはありません。あるとしたら、別の原因です。
*ALSの方は月に1度を目安に検査を受けていただきます。
会員Q:糖尿を指摘されました。どの程度ならよい、わるい等おしえてください。(3型成人)
先生A:注意することは一般の成人、糖尿病の方と同じです。SMAだからこの程度ならよい、関連性がある、ということはないです。
糖尿の治療についてふれておきますと、比較的軽症の方(歩行可能な方)は特に問題になりませんが、日常電動車椅子を使われているような方、運動量を増やして糖のコントロールをするという一般的な糖尿治療ができませんので、食事療法になります。一方、2型児童や2型の成人の方に稀に低血糖の症状がみられる場合もあります。これは筋肉のボリュームに関係があり、糖を適量摂取する、長時間の空腹状態をつくらない、等の改善も容易なものです。いずれも筋疾患の方は気をつけなければなりません。
会員Q:1日の終わりにストレッチを行うとよいとのことでしたが、朝より夜やることのほうがより効果的ということですか?
先生A:朝ではいけないと言うことではないです。筋肉は使うことで縮む、その縮みを伸ばしてあげることで血流をよくし、身体の変形を防ぐという意味では、筋肉使用後(夜)にストレッチをすることがよいかと思います。身体(筋肉)が冷えた状態より、入浴後など、身体が温まった状態で行うのも、方法だと思います。
会員:筋肉を使用する前にストレッチが必要とも言えますね・・・・
先生:スポーツ選手がそうであるように、事前に、使う筋肉をほぐすことも必要ですね。
会員Q:病院での理学療法を受けたほうがよいか?
先生A:受けてください。自宅でのリハビリ方法、症状にあわせたリハビリ量など、適時指導を受けるとよいのではないでしょうか。
会員Q:この病気の場合、運動神経の細胞というのは、一生をつうじて死滅していくものなのでしょうか?
先生A:きちんと調べられているのか、不明です。この病気の場合、ある時点で急激に減っていると思われることがある。(例:1型の場合、胎児のときに細胞死が確認できる等)タイプ、症状によってその時期やその度合いは様々であると言えます。
お問合せ先:事務局