車いすの交付制度について



 手帳を取得した人は車いすの公的な交付制度を利用することができます。ここでは、簡単に制度の概要や賢い利用方法をご紹介したいと思います。

 06年10月から車いすをはじめとする補装具の交付制度は、障害者自立支援法による給付に移行し、本人および同居家族の年間所得が一定の基準以内(世帯員のうち市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円を超えないこと)の人を対象として、定められた基準価格の範囲内で給付が行われことになりました。

 今回の制度改定では、従来の現物支給から補装具費の支給へと大きく変わり、補装具に関する利用者負担は、所得のみに着目した従来の応能負担から、サービス量に着目した1割の応益(定率)負担と所得に応じた月額負担上限を設定するしくみに見直されました。


 図表1 補装具の利用者負担金のしくみ(出典:厚生労働省ホームページより作成)

 この制度は、地方分権の流れにともない市町村がその実施主体となっているため、国が決めた基準価格を参考としながらも、市町村によっては独自に、品目や基準価格を決めているところもあります。
 しかし残念なことに実際の手続きにおいては、とくに電動車いすの支給時において、国の通知を盾にして支給を制限したりするケースがいまだに見受けられます。国の通知は、地方自治法によって地方自治体への技術的助言(いわば「参考用のお知らせ」)と位置付けられており、法的な強制力・拘束力は有していません。にもかかわらず市町村が「国の基準で認められていないので支給はできない」などと、国の通知のみを根拠として補装具の支給を拒むことは、市町村が自らの事務(自治事務)の責任を放棄した不作為であり、その市町村の福祉に関する理念や構想、あるいは地方自治に対する基本姿勢が問われてしかるべきことではないでしょうか。

 国の定める補装具やその付属品の基準価格は、充分に使用に耐えうる最も安いメーカーの価格を参考にして、補装具やその付属品の種類ごとに細かく決められています。(普通型の車いすで100,000円、普通型の電動車いすで314,000円、電動リフト式普通型の電動車いすで701,400円など。) そして市町村は、本体価格に主治医の意見書によって必要とされた付属品等の分を上乗せした価格のものを、市町村が定めた基準価格の範囲内で支給することとなります。
 なお、ティルト機構は、従来、特例補装具扱いとなっておりましたが、2008年4月より、電動ティルト式普通型580,000円、電動リクライニング・ティルト式普通型982,000円などが国の定める基準価格に加わりました。


 図表2 自己負担額の解説(出典:筆者作成)


 この支給制度を上手に利用するためには医療関係者や業者との緊密な連絡が欠かせませんが、基本的なことを理解したうえで話しを進めるとすんなりと行くことも少なくありません。ここでは現状ある制度を賢く利用する方法を考えてみましょう。


医療関係者とのコミュニケーションを大切にしましょう

 医師の意見書がないと話がはじまらないため、主治医をはじめとする医療関係者とのコミュニケーションがとても重要です。
 とくに就学前のSMAの子どもに電動車いすの支給を希望する場合は、主治医のほかに理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、ソーシャルワーカー(MSW)の協力も得ながら、福祉事務所のケースワーカーを呼んでデモ運転をしたり、実際に使用する環境に医療関係者に出向いてもらったりすると話しが具体的な方向へ進むこともよくあります。

 なお意見書を作成できる医師の要件は、身体障害者福祉法第15 条の指定医、障害者自立支援医療指定機関において当該医療を主として担当する医師であって所属医学会において認定されている専門医、あるいは国立身体障害者リハビリテーションセンター学院において実施している補装具関係の適合判定医研修会を修了している医師となっています。また、児童(18歳未満)の場合には指定自立支援医療機関または保健所の医師です。


よい業者とうまく付き合いましょう

 支給制度をうまく利用するには制度と各地の事例に精通した信頼できる業者とのコンタクトが欠かせません。最初からほしい車いすが具体的に決まっている場合には、そのメーカーに連絡を取り、お住まい近くの営業所や代理店を確認することから始めます。
 一方、特に希望するものがない場合には、実際に車いすを使用しているユーザーからの情報や、入通院をしている病院に出入りしている業者の紹介を受けることになると思います。業者のよしあしはユーザーから評判を聞くのがいちばんですが、当然のことながら営業担当者の資質によっても大きく左右されるため、必ず会って納得のいく業者を選択すべきでしょう。多くの場合、依頼をすればデモ機を持って自宅または病院などに来てもらえます。車いすは購入後もメンテナンスが欠かせませんので、対応のよくない業者は避けたほうがよいと思います。


支給の具体的な事務手続きの流れ

 まず申請者は、市町村に主治医の意見書(所定の様式)を添えて支給の申請手続きを行います。市町村は都道府県の更生相談所、指定自立支援医療機関、保健所による技術的な助言を受けながら、支給の要否を決定し、支給決定後に申請者が補装具製作業者と契約を行って、製作がスタートするという流れとなっています。ただし18歳未満の児童の場合には、更生相談所等の判定を経なくても市町村は独自の判断で支給の決定を行うことが可能です。
 今回の制度の改定によって、具体的な補装具費の支給方法は、以下の2通りとなりました。

償還払い方式 申請者が補装具製作業者へ代金をいったん全額支払い、その領収書等を添えて市町村に9割相当分を請求するもの
代理受領方式 申請者が補装具製作業者へ代金の1割分を支払い、申請者から提出された代理受領にかかる委任状を利用して、補装具製作業者が市町村に請求するもの

 なお、すでに支給された使用中の車いすの修理や改造、部品や消耗品の交換などにもこの制度を利用することができます。この場合も部品ごとに細かく「基準価格」が決まっており、大きな改造などでなければ医師の意見書は求められないことが多いようです。


■その他の豆知識


 SMA家族の会では、主として学齢児前の子どもたちを対象に、本人のニードによってきちんと電動車いすが支給されることを支援する目的で、ビデオ『自立するための電動車いす』を作成しました。詳しくは事務局までお問合せください。






お問合せ先:事務局   

戻る