呼吸の問題



国立療養所八雲病院小児科医長石川 悠加  






 神経筋疾患では、手足の関節拘縮予防と同じく、十分な空気を吸ってはいて、肺と胸郭をちょうど良く動かし、その柔軟性を保ちましょう。

 [呼吸機能の検査]
 皆さんが、年1回は行ったほうが良い呼吸機能の検査は、肺活量(VC)と酸素飽和度(SaO2)です。肺活量は、一杯に吸ってからはき出す空気の量で、坐った時より仰向けで低くなることがあります。脊髄性筋萎縮症では2歳半からできるお子さんもいますが、通常5歳を過ぎると上手に測れるようになります。%肺活量は、体格や年令に見合う標準値の何%かを表しています。酸素飽和度は、体に十分酸素がいきわたっていることを確かめるもので、パルスオキシメーターという器械を、指にあてると数字が出ます。日中だけでなく、疲れ、頭痛、不眠や夜中何度も目覚めるなどの症状を訴える時や、肺活量が40%以下の時には、眠っている間にも測ってみます。必要に応じて、最大呼気流速(PCF)や呼気終末炭酸ガス(EtCO2)も測ります。

 [呼吸ケアの大切さ]
 検査の結果と疾患の種類、肺炎のエピソード、本人家族の希望によって、必要な呼吸ケアを行います。これは、急に呼吸が苦しくなって入院するのを防ぐだけでなく、将来鼻マスクによる非侵襲的人工呼吸(NIPPV:Noninvasive positive pressure ventilation)を希望通り行うためにも、大切です。小児期発症の脊髄性筋萎縮症では、適応により、幼児期から夜間のNIPPVを始めると、肺と胸郭の発達が良くなることも期待されます。

 [健全な肺を保つための呼吸リハビリテーション]
 例えば、(1)肺活量が50%以下になったら、深呼吸の代わりとして息溜め(エア・スタッキング)を習得します。救急蘇生用バッグをマウスピースか鼻マスクにつないで送った空気を2〜3回分肺に溜めることで、最大強制呼気量(MIC)が得られます。舌咽頭呼吸(別名カエル呼吸)を覚えると、道具がなくてもできます。肺活量が下がっても、最大強制呼気量を維持することはできますので、先生の指導のもとに行なって下さい。(2)肺活量が50%以下か、最大呼気流速が270ml/分になったら、風邪のときに痰づまりに気をつけましょう。また、呼吸機能検査がうまくできない乳幼児などで咳が弱い方も、注意して下さい。あらかじめ、対策を、先生と相談し、必要な医療機器の導入をすませておきましょう。
 そして、風邪をひいた時に、先生に連絡すれば、適切なアドバイスと器械を短時間でそろえられる体制を作っておきます。
 痰が出しにくい時は、介助咳といって、呼気に合わせて胸部下部か上腹部を押して、咳の力を増します。
 また、咳を補助する器械であるカフマシーンのマスクを口元にあてると楽に痰が出せる場合もあります。そして、NIPPVで、呼吸筋も休息しながら十分に換気を保ちます。呼吸器を使わないで酸素だけを鼻カニュラや吸入用マスクで流すと、炭酸ガスがたまってしまうので、むしろ避けて下さい。このように、酸素飽和度が下がらないように、効率よく痰を出して、NIPPVを併用すると、大抵の風邪は、家にいても数日内に治って、元通りの生活に戻ります。もし、これまでの風邪の時より具合が悪かったり、脱水、高い熱、眠気が続くようなら、早めに診察を受けましょう。誤嚥によって食べ物のかけらが気管にひっかかった時も、その場ですぐにできる介助咳やカフマシーンでとれることがあります。

 [呼吸療法の選び方]  (1)肺活量が30〜40%になってきて、症状を訴えたり、また症状は無くても、検査で日中の炭酸ガス値が高くなったり、夜間の酸素飽和度がある程度低くなったら、夜間のNIPPVを始めた方が良いかもしれません。(2)夜間のNIPPVによっても症状が出てきたり、昼間の酸素飽和度が下がったり、炭酸ガスが高くなる時点では、夜間だけでなく、昼間車椅子上でもNIPPV(口バイブをくわえてもできます)を時々追加します。(3)様々な工夫をしてもNIPPVに協調できない例や、最大呼気流速が160ml/分以下でカフマシーンによっても痰が出せない例では、別の呼吸療法を考える場合もあります。このような時にも、本人・家族が十分な情報のもとに治療法を選び、さまざまなサポートを得られるように、病気の診断時から専門機関と連絡を取ることが大切です。


埜中征哉編集「子どもの筋疾患のいろいろ」 P33-35より引用
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